written by

kada-lab

コラム

持続可能な伝統漁法に注目

この記事は2019年12月15日 朝日新聞「加太まちダイアリー」に掲載されたものを一部編集したものです。

 加太ではよその人と中の人を区別する考えがあるという話を紹介しました。もう一つ、とても漁師町らしいのが、加太では漁師とそれ以外を区別する「漁師さん」と「おかびと」という呼び名の存在があることです。

 今では日常的にはあまり使われないようですが、この呼び方の区別からも分かる通り、古くから漁業を生業としてきた加太では漁師への敬意がまちに根付いていると感じます。まず、漁師のことをまちの人は「漁師さん」と「さん」づけで呼びます。また、航海安全と大漁祈願のために春日神社にて行うえび祭りは、漁師さんもおかびとも、よその人も一緒になって、まちをあげて行います。

 加太には苗字とは別に屋号が存在します。屋号とは、その土地(或いは家)の呼び名で、現在私の職場である地域ラボの場所は、「しろざえもん」と呼ばれており、この屋号が加太の住民には位置情報として記憶されています。多くの屋号は、特定の時代に何かしらの店舗を営んでいた家(店舗や店の店名であることも多い)か、漁師の家に存在するようで、「しろざえもん」もかつて漁師の網元だったのでこのような屋号がついているそうです。昔からの店に屋号がついていることについては考えが及ぶのですが、特にその場で営業活動をしているわけではない漁師の家に屋号がついているのは大変興味深いと感じています。それだけ、漁業がまちの生業として昔から浸透していることを表しています。

夕どきの加太の様子。漁船が停泊する港に夕日が落ちる

 漁場環境としても加太は非常に恵まれています。加太の沖は流れが早く、激しい潮流の中で身が締まった魚が釣れることから天然ならではの食感が楽しめます。これを高級鮮魚として古くから世に送り出してきましたが、不況や冷凍技術の進歩に伴う高級鮮魚の需要の変化と価格の不安定などを理由に漁師の人数も減少しています。漁協の組合員数は、昭和59年には254人でしたが、年々その数は減少し令和元年現在は84名となっています。 漁業について、加太では鯛の一本釣りや、小規模の刺し網(加太では「たてあみ」「あみたて」とも言います)、蛸壺、潜水(素潜り)の4つの漁法を行なっています。これらはいずれも、底引き網漁法等とは異なり獲物をピンポイントで狙う漁法で、こうすることで海底環境を傷つけることなく次世代にも良好な漁場を残すことができる漁法です。

 この漁法を加太では暗黙のルールとし伝統的に行ってきたことが、最近ではサスティナブルだと評価され、サスティナブルシーフードとして注目され始めています。先月は東京駅前の新丸ビルレストランフロアの全店舗で「サスティナブル天国加太」として食のイベントが開催され私も漁師さんと駆けつけました。加太の伝統漁法には今後は日本だけでなく世界から注目が集まり始めると思います。加太のまちづくりにあたって、漁師町としての生業を尊重する精神を受け継いでいけるまちの計画が重要なことだと考えます。